彼女が部屋を出て行ってすぐ、再びドアのチャイムが鳴った。やれやれ、またリー・リンか?今度は何だろう?そう思いながらドアを開けると、そこには彼女でなくチェリーが立っていた。ブラウン・ヘアー、ブルー・ジーン。彼女の栗色の髪は、ぼくが憶えていたよりも少し長く伸びていた。彼女はなぜここにいるのだろう?ぼくはうまく状況をのみこめず、ただただ立ち尽くすだけだった。 「ハロー」彼女は言った。 「ハロー」ぼくも同じように答えた。 「女の子を呼んでいたのね?」彼女はリー・リンが去っていった方を指差し、そう言った。口を尖らせている。とんでもない誤解だ。しかもぼくはバスローブ一枚を身に着けているだけだった。ぼくは今、とても不利な状況にある。シャワーを浴びていたときに突然リー・リンが訪ねてきたのだ。 「違う、呼んでないよ。彼女が勝手にやってきたんだ」 ぼくがそう言うと、彼女は驚いて目を丸くした。彼女の目はもともと大きかったけれど、それがいっそう大きくなり、その後に眉をひそめてこう言った。彼女は実に表情が豊かだ。 「中国語が話せるの?」 「少しだけ」ぼくは答えた。「どうしてもきみと会って話がしたかった。だから、言葉を覚えてきたんだよ」 「信じられない」彼女は驚きを隠せない様子でそう言った。 「あなたは、とても頭が良いのね。前に会ったときは全く話せなかったでしょう?」 彼女がぼくのことを憶えてくれていることはわかった。でも、今は彼女の誤解を解く必要がある。「とにかく、女の子は呼んでないんだ」ぼくは言って、彼女はふうん、と言って背伸びしながらぼくの肩ごしに部屋の奥を覗き込んだ。不満そうだった。 「部屋の中に入っても良い?」 「もちろん」ぼくはそう言って彼女を招き入れた。 彼女は注意深く部屋の中やバスルームを観察し、きちんとメイクされたままのベッドを見て「どうやら本当みたいね」と言って嬉しそうににっこり笑い、ぼくに向き直った。そのまま彼女はぼくの方にまっすぐやってきて、ぼくにぶつかる寸前、いやぶつかるまで歩み寄った。ぼくは思わずあとずさりし、ぼくは彼女に押されるがまま壁に押し付けられる格好になった。 ぼくが彼女の行動の意味がわからず戸惑っていると、彼女はこう言った。 「抱きしめてくれないの?探し物が目の前にあるのに」 「ごめん、忘れてた」ぼくはそう言って彼女を抱きしめ、彼女はぼくの頬にキスをした。 あれほど探し続けたチェリーが目の前にいる、でもあまりに唐突すぎて現実感に欠けていた。 「どうしてこの部屋がわかったの?」ぼくはチェリーに聞いてみた。彼女は背負っていたリュックサックから携帯電話を取り出し「Eメール」とだけ言った。 「私も理由が知りたいの。友達がね、ここに私を探している日本人が居るってメッセージを送ってくれたのよ」 ぼくは、リー・リンのことを説明した。彼女が友達にぼくについてのメッセージを流し、その友達(もしくは、そのまた友達)がチェリーにメッセージを送ってくれたんだ。ぼくはチェリーにそう説明し、凄いネットワークだね、ぼくは感心してそう言った。
by supertoyz
| 2009-03-31 08:15
| チェリー
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