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中国へ(6)


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彼女は、ぼくがギターを弾きははじめて二日後にやってきた。
「ねえ、私のこと憶えてる?」
ぼくはそう声を掛けてきた女の子には全く覚えがなかった。美人だが、やや化粧が濃い。この辺りの女の子にしては珍しくパーマを当てている。歳は20台前半だろうか?だめだ、思い出せない。
「きみは?」
「カラオケボックスで会ったでしょ?」
「カラオケで?」
「そうよ。あなたは私を選ばなかったけれど。あなたは、いったいここで何をしているの?」
 ぼくは彼女のことを全く憶えていなかった。でも、話の流れからすると、どうやらチェリーと一緒にカラオケボックスへ入ってきた女の子らしい。ぼくは、自分がチェリーを探すためにここでギターを弾いているのだ、彼女にそう説明した。
「チェリーにどうしても会いたいんだ。あのとき、同じ部屋に居たんだね?彼女のことを知ってる?」
「残念だけど」と彼女は言った。「その子のことは知らないわ。あそこにはとても多くの子が出入りしているのよ」
 何としても彼女を見つけたいんだ、どうにかして彼女の連絡先を調べることはできないかな、ぼくはそう聞いたけれど彼女はゆっくりと首を横に振った。
「でも、私の友達なら知っている子がいるかもしれないわ。あとで何人かの知り合いにEメールを送っておいてあげる」
「ありがとう」
「ねえ、ところで、あなた私を買わない?」彼女が突然そう言ったので、ぼくはとてもびっくりした。そしてはじめて、彼女が勘違いをしていることに気づいた。
「いや、ぼくは」
「探している子が見つからなかったらどうするの?私で良ければ」彼女は周囲を見回し、声をひそめて言った。もちろん売春は違法行為だ。
「違うんだ、」ぼくは言った。「きみはとても魅力的だ。でもきみと寝るわけには行かないんだ。ぼくはチェリーを探しているけれど、彼女を買うのが目的じゃない。彼女に謝りたいだけなんだ」
「そう」彼女は不思議そうに言った。「でも、私と寝たくなったらここに電話してね」そういって彼女はぼくにメモを渡した。ぼくも彼女に連絡先やホテルの部屋番号を書いたメモを渡し、何かわかったら連絡してくれるように頼んでおいた。
 ねえきみ、名前は?そう訊くと、彼女は「リー・リンよ」、そう言って雑踏の中に消えていった。

 彼女が去ってしまうと、ぼくは「99」を弾いた。TOTO。未来社会を歌った曲だ。そこでは人間の基本的な感情をコントロールされていて、ひとびとは単なる番号で呼ばれている。愛という感情すらも生まれるはずのない管理社会、そこで「ぼく」は「99番」という番号で呼ばれている女の子に恋をしてしまったよ、そういう歌だ。
 歌い終えるとぼくはギターをケースにしまい、立ち上がった。
by supertoyz | 2009-03-22 19:11 | チェリー
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